飲食業にチャレンジしようとしているあなたに、知っておいて欲しいことがあります。
それは、開業前の準備でお店の価値は大きく変わるということです。
そして、準備は身体を使うことばかりではありません。頭の中の考えを固めることも、準備に含まれるのです。
このページでは、あなたのお店の価値をさらに高めるために、開業前の準備として考えておくべきことを紹介していきます。
ぜひ参考にして、これからつくるお店をよりよいものにしてください。
飲食業が誰にでも挑戦できる理由
飲食業は、誰でもチャレンジすることができ成功のチャンスもあります。
最近では独立志向の人が増えていますが、独立方法として最も注目されているのが飲食業界での開業です。
特に最近は、先の読みにくい時代となり、どの仕事に将来性があるか判断も難しくなっています。
しかし飲食業には、外食の需要は絶対になくならないという、業界ならではの強みがあるのです。
誰でもチャレンジできる理由として、まず投資額がそれほどかからないことが挙げられます。
一般的な小規模のお店を開業するなら、初期投資額はせいぜい2000~3000万円あれば十分です。
脱サラした場合でも、用意できる資金の範囲内で、自由に独立することが可能なのです。
また、一般的なお店であれば、特別な調理技術を身につける必要はありません。
当然、日本料理やフランス料理などの専門性の高い料理を提供する場合は、高度な技術をもつプロの料理人が必要です。
しかし、それ以外の小さなお店の場合、技術的にはそれほどのレベルは要求されません。
ある程度の練習を繰り返せば、十分にやっていくことができます。
だからこそ、たくさんの脱サラ店主が成功しているのです。
飲食店はプロの料理を出すところと思っている人もいるかと思いますが、その考えは少し古いといえます。
今は機械も発達しており、加工食品の品質も高くなっています。
これらを上手に利用すれば、高い調理技術と遜色はなくなり、労働としても非常に楽になります。
そしてもうひとつ、飲食業ならではの大きなメリットがあります。
それは、他のビジネスに比べて粗利益率が非常に高いことです。
粗利益率とは、売上高から材料原価を差し引いた残りの金額のことです。
飲食業では、通常65~70%前後が標準となります。
一般的な小売業は10~20%程度なので、比較にならない高率なのです。
あまり繁盛していないのに潰れないお店があると思います。
その秘密は、この粗利益率の高さにあるのです。
最近はディスカウントの波が飲食業にも押し寄せていますが、飲食業は小売業のように仕入値の決まった商品を値引きするわけではありません。
材料原価や売り方による付加価値の付け方で対応できるため、ディスカウントしても利益を確保しやすいのです。
また、食材という性格上、余分な在庫を抱えなくて済みます。
さらに、売上は毎日現金で入ってきます。
在庫が増えれば、仕入の代金をおいておく必要があり、この期間が長くなればなるほど資金繰りが苦しくなりますが、飲食業にはこのリスクがほとんどないのです。
ただし、世の中いいことばかりではありません。
誰でも開業できるということは、それだけチャレンジする人の数が多いということです。
飲食店の数が増え、競争が激しくなっているのもそのためです。
競争相手が多ければ、生き残るためにいろいろと工夫する必要があります。
このことを忘れずに努力することが、飲食店成功の鉄則といえるでしょう。
飲食店の価値を決める3大要素
飲食店で確実に成功するために、理解しておくべきことがあります。
それは、飲食業は「付加価値」を売るビジネスということです。
飲食業の粗利益率は非常に高いものですが、なぜお客様はそれを認めてくれるのでしょう。
コンビニやスーパーに行けば、たいていの食品が飲食店よりはるかに安い金額で揃っています。
にもかかわらず、お客様が飲食店を利用するのはなぜでしょうか?
それは、飲食店が単に食べ物や飲み物を売っているだけではないからです。
食べ物や飲み物に、付加価値をプラスして売っているからお客様は通ってくれるのです。
飲食店の付加価値は、次の3つの要素からなっています。
・商品(料理、飲み物)
・サービス
・雰囲気
そして大事なことは、お店の価値はこれら3つの総合力で決まるということです。
例えば、「料理はおいしいけど、サービスが悪い」「感じはいいけど、料理がまずい」「料理もサービスもいいけど、店内が汚い」という風に、どれか一つでも欠けるとお客様の満足度は低くなってしまいます。
最近では、飲食店の最大のライバルはコンビニといわれていますが、小売業のコンビニとサービス業の飲食店が競合するのは、付加価値が足りない飲食店が増えているからなのです。
ここで言う付加価値とは、お客様にとっての価値のことです。
粗利益率が高いのは調理の手間が入っているから、もしくは場所を提供しているからという人もいますが、このような発想ではお客様が求めているものが分かりません。
たしかに飲食店には、調理代行や場所提供の要素は含まれます。
しかし、それが付加価値として認められるためには、料金の対価としてお客様が期待するレベルをクリアする必要があるのです。
高い粗利益率に見合った付加価値がなければ、お客様は支持してくれることはありません。
繁盛店と不振店との差は、この付加価値の大きさや質の違いにあるのです。
飲食店の売り物は商品だけではありません。
いくら料理がおいしくても、サービスに不満があったり、不潔感を感じさせたりしては、お客様は満足してくれません。
料理や飲み物、人的サービス、お店の内装の醸し出すムード、飲食するのにふさわしい清潔感、これらが一体となったものこそ飲食店の価値なのです。
特に、外食にレジャー性を求める最近のお客様にとって、気分よく楽しく過ごせることは非常に重要なことになります。
少しくらい料理がおいしくても、それだけでは材料原価の3倍の価格をお客様に納得させることはできません。
料理だけでお客様を呼べる時代ではないのです。
飲食店で調理技術よりも重要なこととは?
お店とお客様の関係もお店の運営も、すべて人間関係で成り立っています。
特に、飲食店では「おもてなし業」ということが重要なポイントとなります。
飲食業は言い替えれば、飲食というモノを通して「おもてなしの心」を提供するビジネスなのです。
このことから、飲食業で確実に成功するには、まず人を好きになる必要があります。
「人が好き」ということこそ、飲食業で成功するための最大のキーワードになるのです。
例えば、腕のいい料理人が独立してもうまくいかない例はたくさんあります。
この理由は、おもてなしの心を持っていないことにあります。
料理という仕事は好きでも、お客様を本当に好きになっていないからうまくいかないのです。
接客サービスにも同じことがいえます。
自分ではプロのサービスマンと思っているのに、どこに行ってもうまくいかない人がいます。
たしかに自分で思っているだけあって、接客技術はすぐれているでしょう。
では、なぜうまくいかないのでしょう。
それは、お客様をもてなす「心」が感じられないからです。
接客という仕事は好きなのでしょうが、人が好きなわけではないのです。
本当に人が好きでなければ、本当の意味でのお客様のための仕事になっていません。
だから、お客様を感動させることができないのです。
これは、お客様の立場で考えればすぐにわかります。
あなたがお客様として感動したのはどんなときでしょう?
思い出してみてください。おそらく、お店に大事にされていると感じたときではないでしょうか。
人が好きでなければ、お客様を大事にすることはできません。
好きだからこそ、料理にも力が入ります。
お客様が、本当に満足してくれているか気にかかります。
だからこそ、自然とお客様に尽くす姿勢になるのです。
これこそ、お客様のための仕事であり、サービス業の本質です。
飲食業はサービス業とはいいますが、その意味を正しく理解しなくてはならないのです。
お客様のための仕事とは、お客様が少しでも楽しく豊かな気分ですごせるようにと尽くすことです。
そして、このような心づかいは、必ずお客様に伝わります。
形だけのサービスとは違うことがわかるからこそ、お客様は感動するのです。
仕事が好きなだけでは、お客様を感動させることはできません。
一生懸命働いているのに、どうして繁盛しないかと悩む経営者もたくさんいます。
しかし、まず考えるべきことは、一生懸命働いていることが自己満足になっていないかということです。
お客様のための仕事ではなく、自分のための仕事になってしまっていたら、お客様から支持されなくても当然です。
飲食業の本当のやりがいは、お客様の喜びがそのまま自分の喜びになることです。
しかも、お客様が喜んでくれればくれるほどお店は繁盛します。売上高とは、お客様の満足と喜びの結果なのです。
ライバルと差別化する自分流のお店の作り方
人と違ったことをするには勇気がいります。
特に日本人は、みんなと同じなら安心という意識が強いと言われています。
そして、飲食業でもこれが当てはまります。
個性が大切とわかってはいるものの、実際のお店はありきたりなものになってしまいます。
これでは、繁盛することはできません。
確実に成功したいのなら、勇気を出して自分ならではのお店をつくらなくてはならないのです。
飲食店の数が増え、競争の激しい時代だからこそ、他店との違いを明確にする必要があります。
違いなしには、どこにでもあるお店の内の一つにしかなれないのです。
つまり、自分から繁盛店になることを諦める結果になってしまうのです。
他店と違うお店にすることを差別化といいます。
差別化には、商品、サービス、雰囲気づくりなど、さまざまな面でいろいろな方法が考えられますが、基本は常識的な発想を拒否することになります。
要するに、自分の好きなことを好きなようにやることが必要となるのです。
ただし、お店はビジネスであり趣味ではありません。当然ですが独りよがりではダメで、あくまでお客様の満足という視点で考え、お店づくりを組み立てる必要があります。アイデアとして面白くても、お客様に支持されなければ意味がないのです
ここで注意しなくてはならないのは、お客様の満足を追求することと、八方美人になることは違うということです。
どんなことでも、認める人とそうでない人が存在します。
つまり、認めてくれる人にお客様になってもらえばいいというわけです。
そもそも小さなお店は席数も限られています。
10人中8人、9人に認めてもらう必要はないのです。
これを欲張ってしまうから、様々な点に妥協が生まれ、個性のないお店になってしまうのです。
個性のかけらもない当たり障りのないお店なら、お客様の好き嫌いの落差は小さいでしょう。
しかし、ハートをしっかり掴むことはできません。
一方、個性的なお店は、好きな人と嫌いな人とに極端に分かれます。
しかし、好きな人の支持はより強くなるのです。
お店に共感してくれたお客様は、熱烈なファンになってくれます。
大金を使うのでつい無難に収めたい気持ちもわかりますが、それでは繁盛店はできません。
勇気を持って一歩踏み出し、自分流のお店づくりをめざす、これこそ成功への突破口となるのです。
お客様のお店の選択を左右する2つの利用動機
お客様の利用動機をきちんと想定し、運営方針を決めているお店は少ないのが現状です。
極端に言えば、なんとなくお店を開けて、なんとなくお客様が入ってきてくれるのを待っているお店がほとんどなのです。
なんとなくでは繁盛することはできません。
お客様の利用動機を想定することは、それほど大切なことなのです。
例えば、毎日のランチにも仕事の接待にも使い、さらに恋人とのデートにも使うようなお店が存在すると思いますか?
常識的に考えると、ほとんどあり得ないと思います。
お客様は利用動機の違いによって、飲食店を使い分けているのです。
飲食店を利用する主な目的は「飲食」することです。
ただし一言で飲食といっても、シチュエーションが違えば予算や選ぶお店が変わります。
お客様の立場で考えると、利用目的によって飲食店に期待するものが変わることになります。
ランチのときに接待向けの料理やサービスは必要ないし、接待やデートのときにランチ同然の料理とサービスでは困るのです。
飲食店の利用動機は、「日常的利用動機」と「非日常的利用動機」に分けられます。
普段のランチは、空腹を満たし栄養補給をすることが目的なので「日常的利用動機」になります。
日常的な利用のため、予算は安いほうがいいですし、お店の選択にもそれほどこだわらないでしょう。
一方、恋人とのディナーや家族の団欒で飲食店を利用するときは、飲食という場を通して、普段とは違った心の豊かさや楽しさを味わうことが主な目的となります。
これが「非日常的利用動機」です。
このような場合、使う予算もぐんと高くなります。
お客様は利用動機によって予算を決め、お店を選びます。
つまり、お客様の目的から外れてしまうと、いくら待っていても来店してはもらえないのです。
例えば、近所にオフィスがたくさんある場合、ランチタイム苦戦することはほとんどないでしょう。
そこそこの価格でランチを提供すれば、黙っていてもお客様が来てくれます。
問題は夜の時間帯です。
多くの飲食店で夜の売上が上がらない原因は、お客様の非日常的な目的を満たすお店になっていないことにあります。
これは、高級店でなければならないということではありません。
非日常的利用動機とは、普段と違うというだけで大金を使うことではないのです。
簡単に言うと、豊かな気分にさせてくれ、楽しく過ごせるお店が必要ということです。
お客様に利用して欲しいシチュエーションを、わかりやすい形でアピールしないことには、非日常的利用動機を取り込むことはできません。
これをじっくり考えてみてください。
飲食店を開業する前にしっかり準備しよう
以上が、開店前に考えるべきことになります。
お客様を軸にお店の構成を考えることで、あなたのお店の価値は何倍も高まります。
そして、お店の価値が高まれば、苦労なく飲食店を経営し続けることができるようになるのです。
後々苦労しないためにも、はじめの準備が肝心です。
開業後後悔しないためにも、開業前にしっかりと考えを固めてから行動するようにしてください。